第1章 海上治安の維持
 「国連海洋法条約」は、8年7月20日に我が国について効力を生じた。
 同条約の締結と関係法令の整備に伴う直線基線の採用、接続水域の設定及び排他的経済水域の設定によって、監視取締り水域が拡大されることとなった。これにより、我が国領海内における主権の確保や排他的経済水域等における我が国の国家権益の保護のため、適切な監視取締りを行うことが一層強く求められており、海上警備がますます重要となっている。

T 領海警備等

 1 領海警備

  (1) 現状

 領海警備は、一般的には、我が国の平和、秩序、安全を害する外国からの諸活動に対して、我が国領海内における主権を確保するために行われるものであり、領海内における外国船舶の無害でない通航や不法行為の監視取締りを任務とする警察活動である。
 海上保安庁は、海上の秩序及び安全を確保するため、これらの領海警備を実施しており、9年には、我が国領海内で操業等の不法行為を行い又は徘徊等の不審な行動をとった外国船舶816隻(うち漁船797隻)を確認している。このうち、不法行為船であった503隻に対しては、471隻を警告の上直ちに退去させ、悪質な28隻については検挙し、また、不審な行動をとった船舶313隻に対しては、当該行動の中止を要求し、あるいは警告の上退去させるなど必要な措置を講じた。
 さらに、荒天による避難等で領海内へ緊急入域した外国船舶4,630隻については、海上保安庁への事前通報等の秩序ある入域を指導するとともに、不法入出国、密輸等の不法行為に関与することを防ぐため、動静監視等の警備を実施している(第2―1―1図参照)。
第2-1-1図 不法行為・不審行動船舶及び緊急入域隻数の推移
  (2) 尖閣諸島関係
 尖閣諸島周辺海域では、多数の台湾漁船及び中国漁船の操業が認められる。
 このため、海上保安庁では、巡視船を常時配備し、航空機を随時しょう戒させ、厳格な監視を実施している。
 8年以降、台湾・香港等で「保釣活動」と呼ばれる尖閣諸島に対する領有権主張の活動が活発化しており、10年6月には、香港及び台湾の抗議船団6隻が尖閣諸島周辺海域に接近し、うち香港の抗議船「釣魚台号」が巡視船艇等による再三の警告にもかかわらず2回にわたり領海内に侵入したうえ、活動家が同船から降下したゴムボートにより魚釣島上陸を試みる事案が発生したが、巡視船艇等により、領海外に退去させた。その後、「釣魚台号」は、遭難信号を発し、当庁巡視船により救助された同船船長を含め乗員全員が台湾の抗議船に移乗して無人となった。そして、漂流状態となった2日後、魚釣島北方領海内において沈没した。
 沈没前には海上保安官が船内調査を実施しており、機関室内の主機冷却水パイプのゴム継手等が2箇所で輪切り状態、このうち1箇所が人為的に切られた状態であり、また、1箇所が緩んだ状態となっており、この3箇所から浸水が発生していた。
 海上保安庁では、これらの事案に対し、関係省庁と連携を図りつつ、不測の事態が生じないよう細心の注意を払いながら、警備及び救難活動を行った。

 2 外国海洋調査船に対する警備の現状

 我が国は、国連海洋法条約に基づき、我が国の大陸棚及び排他的経済水域において外国が海底資源調査等を行うことは我が国の同意が無い限り認めないこととしている。
 海上保安庁では、我が国が主権的権利及び管轄権を有する大陸棚等に係る海域において、外国海洋調査船等に対し巡視船艇・航空機により厳重な追尾監視を行い、国内法の規制がある海洋調査についてはこれに従って対処し、また国内法の規制を受けない海洋調査につき、我が国の同意が無いものに対しては、現場海域において中止要求を行うとともに、外務省等にも通報する等により、対処していくこととしている。
 最近の6箇年について、同海域における外国海洋調査船等の確認状況を見ると、6年の24隻、8年の22隻が目立っており、これは、従来と比較し中国海洋調査船の件数が増えたためである。9年については10件と減少しているがそのうち4件は、中国海洋調査船の件数である(第2―1―2図参照)。
 なお、10年4月には中国の海洋調査船が、東シナ海の日中中間線付近より日本側の海域で、巡視船の中止要求等を無視して調査活動を行い、さらにこの間3回にわたり領海内に侵入した。海上保安庁としては関係省庁に対しこれらの事実関係等を通報するとともに、現場において、該船が我が国排他的経済水域から退去するまで巡視船等による警備を行った。
第2-1-2図 外国海洋調査船等の確認状況の推移

 3 我が国漁船の保護

  (1) 北海道周辺海域におけるだ捕事件
 9年のロシアによる日本漁船のだ捕隻数は1隻(6人)で、宗谷海峡東方のオホーツク海においてだ捕されたものである。また、根室海峡においては、漁船1隻がロシア国境警備隊の警備艇から銃撃を受け、2名が負傷した。10年に入り6月末現在、根室海峡において1隻(8人)がだ捕されている。ロシアはロシア極東海域において、10年は「ビオ(生物資源)98」と称する密漁取締りを実施しており、違反漁船に対しては武器の使用をも辞さないという強硬な姿勢を示してきていることから、引き続き厳しい取締りが予想される。
 このため、海上保安庁では、だ捕等の発生が予想される北海道東方海域のロシア主張領海線付近等に、常時巡視船艇を配備し漁船等の監視を行うなど、漁業秩序の維持に努めている。
  (2) その他の海域におけるだ捕事件
 9年には、漁業水域内、領海内操業等を理由として、ミクロネシアによる2隻(13名)等の計5隻(46名)がだ捕された。
 なお、だ捕された漁船及び乗組員は全員帰還している。

U 海上における法秩序の維持

 9年は、海上における犯罪の予防及び法令の励行を図るため、旅客船等に対する海上保安官の警乗や約71,200隻の船舶に立入検査を実施した。海上犯罪の取締りについては、刑法犯、薬物・銃器事犯、不法出入国事犯、海上環境関係法令違反の摘発、海難の発生に直接結びつくおそれのある海事関係法令違反や組織的な漁業関係法令違反の取締りを重点事項として実施し、8,573件の海上犯罪を送致するとともに、その違反の態様が軽微で是正の容易な3,093件の行政関係法令違反について、警告措置を講じた(第2―1―3図参照)。
第2-1-3図 法令別送致・警告件数(9年)

 1 海事関係法令違反

 9年の海事関係法令違反の送致件数は4,317件であった。このうち、プレジャーボート等の小型船舶に係るものが2,977件(69.0%)と最も多く、次いで漁船(766件)、貨物船(300件)の順になっている。
 海事関係法令違反については、無検査船舶の運航、無資格者による船舶の運航、貨物船等の満載喫水線超過載荷、プレジャーボート等の最大搭載人員超過搭載等、特に海難の発生に直接結びつくおそれのある事犯に重点を置き、関係機関と密接な連携を保ちつつ指導取締りを実施している。
 年末年始やゴールデンウィークには、海上旅客が増加し、また、釣り等の海洋レジャー活動が活発化するため、全国一斉に指導・取締りを行い、法令の励行及び安全の確保に努めている。

 2 漁業関係法令違反

  (1) 日本人漁業関係
 9年の漁業関係法令違反の送致件数は1,369件であり、そのほとんどが無許可操業や区域外・期間外操業等のいわゆる密漁事犯であった。
 近年の密漁事犯は、ますます悪質・組織化しており、中には暴力団が関与する大掛かりな密漁も行われている。
 また、沖合における密漁は、監視取締りの目が十分には届きにくいことから、禁止区域内操業を行っていながら航海日誌等の書類を改ざんするなど証拠隠滅を図ったり、取締りに当たる巡視船等の動向をお互いに通報するなど、組織的かつ巧妙に行われる悪質な違反が多い。
 これらの密漁事犯は、漁業紛争を引き起こしたり、水産資源の枯渇につながるおそれが強いので、漁業関係者に対する防犯指導を徹底する一方、巡視船艇・航空機による厳重な監視取締りを行い、漁業秩序の維持に努めている。
 さらに、地方公共団体、漁業関係団体との間において密漁事犯の情報交換、密漁防止に関する指導・啓蒙活動への協力など関係機関との連携強化を図るとともに、合同取締りを実施している。
  (2) 外国人漁業関係
 9年の外国人漁業関係法令違反の送致件数は30件であり、警告等の措置を含め、監視取締りを積極的に推進しているところである(第2―1―1表参照)。
第2-1-1表 外国漁船の監視取締状況の推移(単位:隻)
措置等 5 6 7 8 9
立入検査 領海 51 67 86 61 84
排他的経済水域 47 37 18 23 16
98 104 104 84 100
検挙 領海 34 13 7 13 23
排他的経済水域 16 13 8 5 4
50 26 15 18 27
確認延べ隻数 領海 872 429 596 933 1,520
排他的経済水域 2,258 2,902 4,737 11,097 17,463
3,130 3,331 5,333 12,030 18,983

(注) 排他的経済水域の隻数は、平成8年7月19日以前においては、旧漁業水域における隻数である。

  (韓国漁船)
 韓国漁船は、ほぼ全国の水域において、底びき網漁船、あなご篭漁船及びいか釣り漁船等が操業しているが、不法操業は九州西岸沖から能登半島沖にいたる日本海周辺水域でみられ、中でも対馬周辺の水域において特に多くみられる。9年には外国人漁業の規制に関する法律(以下「外規法」という。)違反等で16隻を検挙している。
 このうち、平成9年1月1日から採用した直線基線により新たに領海又は内水となった海域での検挙は6隻である。
  (中国漁船)
 中国漁船は、二そうびき底びき網漁船、まき網漁船及びいか釣り漁船等がほぼ全国の水域において操業している。9年には外規法違反等で6隻を検挙している。
  (台湾漁船)
 台湾漁船は、さんご網漁船、突棒漁船、はえなわ漁船等が沖縄や奄美大島周辺水域において、また、さんま棒受網漁船が北海道南東水域において、さらに、さんご網漁船が男女群島周辺水域や伊豆・小笠原周辺水域において操業している。9年には、外規法違反等で3隻を検挙している。
  (ロシア漁船)
 ロシア漁船は、昭和52年以来、大型冷凍トロール漁船及び中型まき網漁船が、母船、仲積船、タンカー等とともに、北海道南東沖から千葉県銚子沖にかけての広大な水域において操業していたが、近年は操業規模が縮小している。9年には、我が国の港に許可を受けずに寄港したロシア漁船2隻を外規法違反で検挙している。
<事例>
 10年1月、長崎海上保安部所属巡視船艇が、五島灘の直線基線の採用に伴い新たに領水となった水域において、侵犯操業中の韓国漁船を発見、停船を命じたがこれを無視して逃走し、捕捉の際、海上保安官に激しく抵抗した乗組員3名を外規法違反の他、公務執行妨害罪及び傷害罪で検挙した。本件は、継続追跡中の公海上における外国船舶内で行われた海上保安官の職務執行を妨害する行為に対して刑法を適用した初めての事件となった。
 3 刑法犯
 9年の海上における刑法犯の送致件数は1,299件であった。これを罪種別にみると、業務上過失往来妨害事犯が1,152件(88.7%)とその大半を占め、次いで業務上過失傷害事犯(96件)、殺人及び傷害等の事犯(31件)、業務上失火等の事犯(6件)の順になっている。
  (1) 海難事件
 船舶の衝突、乗揚げ等の海難が発生した場合は、その刑事責任を明らかにするために必要な捜査を行っている。このうち、衝突していながら相手船に自船の船名等を告げず、また関係機関に対しても衝突事実を通報することなく航行を続けるといったいわゆる当て逃げ事件が、9年は49件発生した。
 当て逃げ事件は、被害船の多くが漁船で、全体の63.3%を占めており、乗組員に死傷者を生じることも多く、人身被害者総数36人のうち32人が漁船の乗組員であった。
 当て逃げ事件は夜間発生したり、目撃者がいない場合や被害船が沈没した場合には、事件の認知までに相当の時間を要するとともに、手掛かりとなる証拠品もわずかであること等により、加害逃走船の割り出しが極めて困難な場合が多いが、巡視船艇・航空機の緊急配備、広域手配、塗膜鑑識装置を用いた科学捜査等によって、近年には、その70%以上を検挙しており、9年においては73%であった。
<事例>
 9年11月24日夜、瀬戸内海播磨灘において、船体に損傷のある無人の漁船が漂流しているのが発見され、後日、行方不明となっていた船長が遺体で発見された。
 姫路海上保安署は、直ちに当て逃げ死亡事件として捜査に着手し、対象船舶約400隻の中から容疑船の絞り込みを行い、遺留塗膜の鑑定結果などに基づき、発生から56日目にして被疑者を業務上過失致死等で逮捕した。
 また、海難事件の中には、保険金を目当てに故意に船舶を沈没させるなどの場合もあるので、あらゆる角度から綿密な捜査を行っている。
 さらに、近年の海洋レジャーの進展に伴い、プレジャーボート等の海難が跡を絶たないため、関係者に対して法令の励行を徹底させるほか、事件が発生した場合は必要な捜査を行っている。
  (2) 海上における人身犯
 9年の海上における人身犯は、殺人1件、殺人未遂4件、傷害19件、暴行3件であった。
 殺人をはじめとする凶悪犯罪には、本邦を遠く離れた洋上で発生する事例もあり、このような場合には、船内の秩序維持、証拠保全、被疑者の保護及び引き取りなどのため、必要に応じて海上保安官を現地に派遣している。
 また、その犯行の動機や原因をみると、狭い船内での長期にわたる単調な生活と過酷な労働による不満のうっ積、あるいは最近では外国人漁船員の雇用が進むといった環境の中での言語、習慣の違いを遠因とした、飲酒の上での口論や船内生活上のトラブルが引き金となって犯行に及ぶという事例が多い。
 このため、関係団体等を通じて、明るい職場環境づくり、刃物類等凶器となるおそれのある物の保管管理の徹底等を指導している。

 4 出入国関係法令違反

 (不法入国の現状)
 近年、船舶を使用して不法に入国を図る外国人が跡を絶たず、海上保安庁では、9年に605名、10年は8月末までに、272名の不法入国者を検挙している。そのうち、中国人は9年が577名、10年は8月末までに246名と、依然高い割合を占めている(第2―1―4図参照)。
第2-1-4図 不法入国者検挙人員の推移(10年8月末現在)
 中国人の不法入国事犯は主に、正規の貿易貨物船等の倉庫やコンテナ等に潜伏してくるもの、特定の密航船を仕立てて直接我が国へ密航してくるもの、中国船で出航し途中で日本漁船に乗り換え密航してくるもの、中国船で出航し韓国済州島の沖合等で韓国漁船に乗り換え密航してくるものの4つの形態があるが、最近では、仕立て船により直接密航してくる事犯及び日本漁船に乗り換えて密航する事犯が減少し、貨物船等に潜伏してくる事犯及び韓国漁船に乗り換え密航する事犯が多発している。
 中国人による不法入国事犯については、「蛇頭」と呼ばれる国際的な密航ブローカーが我が国暴力団と手を組み、不法滞在者や漁業関係者等を抱き込んで、密航者の募集・運搬、我が国での住居手配及び就職斡旋に関与しており、また、密航者もより多くの収入を得ようと積極的に「蛇頭」と接触し、我が国へ入国を図ろうとしている背景がある。
 特に、仕立て船による密航、日本漁船による密航、韓国漁船による密航については、GPS航法装置(衛星を利用した自船位置表示装置)や携帯電話を活用して、深夜上陸し、迎えに来ている日本国内の組織が用意した保冷車等に乗り込み逃走するなど、その形態も組織的、かつ、巧妙化している。また、貨物船等に潜伏してくる密航については、船内に巧妙な隠し部屋を設けた事例が増加している。
 中国人不法入国者のほとんどは、かつて我が国で就労していた帰国者からの情報に触発されることが多い福建省出身者である。最近では、これらの者が中国の東北、華中地域等から出国し、日本全国において上陸を図っている。
<事例>
 9年11月、高知海上保安部は、中国漁船で江蘇省を出発し本邦の南方海上で日本漁船に乗り換え、高知県土佐清水市の漁港に上陸した中国人密航者57名を不法入国容疑で逮捕するとともに、日本漁船に乗船していた日本人1名と中国人1名を集団密航者を本邦に上陸させた罪の容疑で逮捕した。なお、高知県警察において、上陸した密航者を受け取り輸送しようとした日本人5名と中国人2名を集団密航者を収受した罪等の容疑で逮捕している。
 本件は、第三管区海上保安本部が入手した情報に基づき、第五管区海上保安本部と高知海上保安部が高知県警と協力して内偵捜査を実施し、受取船である日本漁船から下船した密航者をトラックに乗車させたところを摘発したものである。
 一方、中国人以外による不法入国事犯については、7年以降韓国で就労していたバングラデシュ人等が不法入国する事犯が増加しているが、この事犯にも、最近では韓国国内の密航ブローカーばかりでなく、我が国暴力団の関与が認められるようになった。
 (海上保安庁の対応)
 これら不法入国事犯は、依然として存在する我が国と周辺諸国との所得格差を背景に、高収入を得る目的をもって我が国で不法就労するためであるとえられ、今後も多発するものと予想される。
 このため、海上保安庁では、国内関係機関と緊密な連携を保ちながら、不法入国事犯が発生するおそれの高い海域における監視警戒を強化するとともに、中国等を出港若しくは経由して我が国に来航する船舶に対する綿密な立入検査の実施により、密航者の発見に努めている。
 また、職員を中国等に派遣し不法出国者の取締り強化を申し入れるとともに、9年10月には中国側、10年2月には韓国側と、それぞれ海上取締機関協議を実施し、密航防止について、国外関係機関とも情報交換を行うなど連携強化に努めているところである。
 さらに、海事関係者や沿岸住民からの情報により、密航船及び密航者を摘発する事例も多いことから、情報の提供を依頼している。

 5 薬物・銃器関係法令違反

 9年の薬物・銃器関係法令違反の送致件数は、薬物関係法令違反8件、銃器関係法令違反7件であった。
 薬物・銃器問題は、我が国のみならず世界各国で深刻な社会問題となっている。薬物事犯については、青少年層における覚せい剤乱用が増加するなど「第3次覚せい剤乱用期」を迎えており、また、銃器事犯についても、けん銃を用いた現金輸送車の襲撃事件が発生するなど、依然として非常に憂慮すべき状況にある。
 このような状況にかんがみ、薬物事犯については、政府の「薬物乱用対策推進本部」において、「第3次覚せい剤乱用期」の早期終息に向けて緊急に対策を講ずるとともに世界的な薬物乱用問題の解決に我が国も積極的に貢献することを目的とした「薬物乱用防止五ヵ年戦略」を策定し、その対策を強力に推進している。また、銃器事犯についても「銃器対策推進本部」において、政府を挙げて対策を講じている。
 我が国で不正に用いられている薬物・銃器のほとんどは、船舶等を使用して海外から密輸入されているとみられており、特に船舶による場合は、その複雑な構造を利用して船内に隠匿して持ち込む方法のほか、洋上で外国船舶から日本船舶への積替えを行い、離島・地方港等を中継地として持ち込むなど巧妙、かつ、組織的な手口が用いられている。また、密航事犯に乗じて銃器を持ち込んだ事例も発生している。
 海上保安庁では、こうした状況に対処するため、
 ア 密輸入に関与している疑いのある船舶や人物に関する
  情報収集活動の推進
 イ 薬物・銃器の流出するおそれのある東南アジア、南米地
  域等から入港する船舶に対する徹底した立入検査の実施
 ウ 洋上積替えの行われるおそれの高い沖縄、南西諸島周
  辺海域などにおける監視警戒の強化
 エ 警察、税関等の国内取締機関との密接な連携による全
  国一斉の集中取締りの実施
 オ 離島・地方港湾などにおける海事・漁業関係者等に対す
  る不審情報の通報等の協力要請(通報の促進を図るため、
  10年3月、フリーダイヤル「0120-499950(至急救急GO!)」を設置)
 カ 海外関係機関との情報交換の促進
を図り、薬物・銃器の水際阻止に全力を挙げている。
<事例>
 10年3月、敦賀海上保安部は、密航事件を捜査中、関係者より密航船内においてけん銃を見たとの供述を得たことから密航船内の捜索差押を実施、第3魚倉内船底から実包6発を装填した回転式けん銃1丁を発見、押収のうえ、中国人1名を銃砲刀剣類所持等取締法違反(けん銃不法所持)で検挙した。

 6 その他の法令違反

 9年におけるその他の法令違反の送致件数は162件で、そのうち電波法違反が99件であった。

V 海上紛争等の警備と警衛・警護

 1 海上紛争等の警備

 9年は、外国艦船の入出港に伴う警備、核物質の海上輸送に伴う警備、原子力発電所及び空港の建設に伴う紛争等に関連した警備、米軍基地問題に係る警備等合計674件を実施した。
 10年1月には、韓国による自主規制措置の中断通告後、韓国漁船が北海道襟裳岬沖(中断通告以前の自主規制水域内)で操業を開始したため、我が国漁業者が、同韓国漁船に対し抗議活動を行ったことから、所要の警備実施を行った。
 また、10年3月のむつ小川原港における第3回高レベル放射性廃棄物返還輸送及び9年5月から10月まで実施された沖縄普天間基地移転に伴うキャンプシュワブ沖の調査に対する反対行動に見られるように、核物質の輸送、米軍基地問題等に対する反対運動は、依然として活発に行われている。9年6月の「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)見直しの中間報告の公表後は、米艦船の本邦寄港等を新ガイドラインの先取りととらえた反対運動が活発に行われつつある。
 さらに、10年6月には革共同中核派が成田闘争等の一環として駐車中の成田空港路線のバスの爆破事件を引き起こすなど、過激な行動をとる集団による時限式発火装置等を使用したテロ・ゲリラ行為も依然として行われており、海上でのテロ・ゲリラの可能性も懸念される。
 このため、海上保安庁では、警備実施強化巡視船(警備実施体制の整備・強化を図るために特に指定した巡視船)を始め、巡視船艇・航空機による警備実施訓練・研修を行うなどにより、警備実施体制の強化を図り、海上における公共の安全の確保と秩序の維持に努めている。

 2 警衛・警護

 9年は、天皇皇后両陛下の第17回全国豊かな海づくり大会御臨席に伴う警衛等天皇陛下及び皇族方に対する警衛67件、国内外要人に対する警護57件を実施した。
 特に、10年4月のエリツィン・ロシア大統領来日に際しては、巡視船艇延37隻、航空機1機を羽田空港周辺海域及び日露首脳会談等の行われる静岡県川奈沖周辺海域に投入するなどして、大統領の警護を行った。